NHKスペシャルで「都市型直下地震」の特集が放送されていました。
9月1日が「防災の日」だったこともあり、週末にかけてNHKでは防災関連の番組が多く組まれており、この放送もその一つだといえます。
以前からNHKスペシャルではこうした災害関連の番組を定期的に放送していて、このブログでも「」を取り上げたことがありました。
今回の放送内容は、それ以上に迫りくる都市型直下地震の恐ろしさ、高層ビルが立ち並ぶ都市で住むことのリスクを様々な事例とともに赤裸々に描いていたと思います。
今回はその内容の流れに沿いながら、番組レビューをお送りしたいと思います。
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これまでにない地震動「長周期パルス」
from: NHK
阪神淡路大震災以降、日本の各地では地震に強い建物の建築が進められてきました。
しかし昨年の4月に発生した熊本大震災では、これまでにない激しい揺れが建物を襲います。
それが”長周期パルス”による振動です。
長周期パルスというのは、脈打つような大揺れが一瞬にして発生する振動のことで、あまりにも瞬間で激しい揺れが発生するために、避難などの準備を行う時間すら取れない危険を持った地震のことを指します。
特に超高層ビルでの揺れは最大で2,7メートルにもなり、中に住む住人の安否だけでなく、建物全体の損傷も激しくなるという二次災害をもたらす可能性もあります。
それによって、これまで震災で培われてきた耐震技術(免震装置)が破壊されるという新たな課題が生まれてきました。
かつての阪神淡路大震災や中越地震では、短い周期の振動が細かく震災地を襲ったため、木造建築などの一般の住宅の倒壊が相次ぎましたが、東日本大震災では、長い周期の振動が発生したため、ビルなど高層建築の被害も多々出ました。
しかし熊本大震災では、長い周期の振動が発生しただけでなく、活断層の真上で発生する長周期地震動(長周期パルス)が街を襲ったために、住民が避難の準備をする時間もなく被害が拡大したのです。
まとめてみると、
・短周期地震動⇒小刻みに短い時間で揺れる(一般家屋に被害)
・長周期地震動⇒ゆっくりとだが、長い時間で揺れる(高層ビルに被害)
・長周期パルス⇒激しく瞬時に揺れる(高層ビルに特に被害)
になるのではないかと思います。
そしてその長周期パルスが熊本の街を襲った時間は、わずか3秒。
まさに逃げる間もない「一瞬」のことでした。
「長周期パルス」による被害の実態とは
番組では専門家が実際のビルを撮影し、建築物の構造条件をコンピュータに当てはめてる予測実験を行っていました。
その結果は「20階建ての高層ビルが長周期パルスに襲われた場合、建物の低い部分が変形してしまい、条件が悪いとそのまま倒壊してしまう危険性が出てくる」
コンピュータ上のグラフィックで見ると、揺れがビルを襲った際に高層階が揺れるのは当然ですが、それよりによって高層部分を支える低層階の構造物が、上部からくる激しい揺れによる負荷でさらに損傷し、建物を歪ませてしまうということが明らかになっていたのです。
その後、スタジオでは司会の有働アナウンサーがバーチャル・リアリティによる「長周期パルス体感実験」を行い、その激しい揺れを実際に感じていました。
オフィスビルが一瞬にして揺れに襲われて、成すすべもない状況を、有働アナウンサーはVRグラスと椅子ではっきり可視化・体感することができ、「これはどうしようもないですね」という実験後の一言を呆然とした表情で述べていました。
揺れの凄まじさを理解することができた瞬間でしょうか。
瞬時に巨大な揺れが建築物を襲う長周期パルスでは、住民の避難はもちろんのこと、地震速報すら間に合わないという状況が発生するのです。
長周期パルスが襲う可能性のある場所、それは・・・
このように阪神淡路大震災、中越地震での短い周期での地震動、東日本大震災での長周期による地震動からさらに危険度がアップした、熊本大震災での長周期パルスが起こる原因は、長周期振動が活断層の真上で発生することにあります。
番組では次なる長周期パルスが襲う可能性のある都市を検証し、最もそのリスクが高い場所を「大阪平野の上町断層帯」だとしていました。
from: 内閣府 防災情報のページ
ここは活断層の真上にあるだけでなく、日本有数の大都市圏である大阪の中心地であり、超高層ビルが立ち並ぶ地帯、さらに高層建築物の密集地でもあるからこそのリスクが最大の要因だということ。
特に密集した建物の間が狭いと「棟間衝突」のリスクも大きくなります。
「棟間衝突」とは激しい揺れで建物と建物がぶつかり合い、建造物を損傷や倒壊の危険をはらんだ現象のことです。
こうしたビルの密集地が立ち並ぶ大阪では、活断層の真上に位置する以上に、そこから派生する高層ビルの倒壊ならびに住民の避難による混乱という、二次三次災害のリスクが常に存在するのですね。
進んでいる長周期パルス対策
こうした激しくも瞬時の揺れに対抗するため、従来の免震技術をさらに超えた新技術が次々に開発されようとしています。
そのなかでも目を引いたのが、建物そのものを宙に浮かせてしまう免震技術です。
この発生装置が6個あれば、木造住宅を一軒浮かせることが可能だといいます。
「フロートシティ」(浮く都市)が意味する通り、建築物全体、街そのものを装置の上に建てて、緊急時には町ごと浮かせるというアイデアも出ているようなので、これは確かにいいなと思いました。
そしてこれを突き詰めれば、「天空の城 ラピュタ」の世界に行きつくのでないかという想像も膨らんでしまいますね。
もう一つの免震技術が、従来の免震構造に工夫を加えた「スイッチダンパー」です。
from: 安井建築設計事務所
巨大地震が発生するとダンパーフレームがLMガイド上を大きく移動、内蔵されたロックピンがベースフレームの設定変形位置にある孔に落ち、両フレームを固定してオイルダンパーを作動させます(スイッチON)。告示波を大きく上回る南海トラフ巨大地震のような地震動に対しても免震層を安全に制御し、建物と擁壁の衝突を防止することができます。
半田市新庁舎に巨大地震に対応する新たな免震装置「スイッチダンパー」を採用 | TODAY! YASUI STYLE
従来の免震技術は、建築物の下に揺れを軽減する装置を取り付けることで免震を図るのですが、長周期パルスが襲ってくると、あまりにも激しい揺れのために装置そのものが建物にぶつかって、損傷してしまうというリスクが発生します。
しかしここにダンパーというブレーキ装置を取り付けることで、装置の揺れ幅を抑止し、損傷を防ぐというアイデアが工夫されていました。
これによってできた「スイッチダンパー」と呼ばれる新しい免震装置は、短い周期の揺れの際には起動せず、長周期の揺れの際には起動するように設定ができるということ。
まさに技術はすでに長周期パルスを捉えている!という感じがしますね。
*上記の「スイッチダンパー」記事は、今回のNスぺ放送回で取り上げられたものではありませんが、技術的に重なるため引用させていただきました。
まとめ
私の住む町は幸いにも長周期パルスが発生する活断層の上にはないのですが、決して離れた地域に住むわけではなく、友人や親せきの多くは上町断層帯の付近に暮らしているので、かなり不安であることは確かです。
おそらく関西に住む人なら、同じような不安を抱えているのではないでしょうか?
番組では最後を迎えて有働アナウンサーが「これからマンションや家を買おうとしている人は、こうした震災のリスクを避けるためにも、どこをどう見分けたら良いのでしょうか?」と専門家の方に尋ねる一幕があり、先ほどの不安もあって「そうだ!そうなんだよ!」と激しく同意していました(苦笑)
その問いに対して、専門家の方は次のような方策を示しています。
・近くに断層があるかどうかをチェックする
・地盤は大丈夫かをチェックする
これらの情報を調べるために必要なサイトは、
だとのこと。
見てみましたが、どちらも公共の団体であり、国レベルで進めている断層に関する調査結果を掲載しているので信用が置けます。
そのほかにも、実際に揺れが住宅を襲ったときのために、
・部屋の家具を固定しておく
・エレベーターが壊れた時のために、階段避難車を用意しておく
などを推奨されていて、こちらもかなり参考になります。
私自身が経験した阪神淡路大震災は被害は巨大でしたが、それでも長周期地震動による揺れではなかったので、その意味での恐怖は味わうことはありませんでした。
あれから20数年たって、さらに街が高層ビル化していくなか、当時よりも地震によるリスクが拡大している中で、今回の番組で取り上げられた事実はショックでしたが、それ以上に対応策が次々と現実化している様子を知ることができて安心した感があります。
これからも新たなる技術の進化を期待したいと思いますし、自分自身も地震への備えは欠かさないように日々、防災情報を取り入れたり、生活の中で必要な防災対策を練っていこうと思います。