災害時に起こる「病」のケアに関する本のレビューとまとめです。
本のタイトルは「災害不調」。
「災害不調」とは、災害によって受ける強いストレスや不安がもたらす「精神的・肉体的不調」のことを指します。
具体的には、
うつ、動悸、発汗、耳鳴り、不眠、肩こり、イライラ、便秘
などがあり、発症して検査を受けても、とくに「医学的な」異常が見当たらないことが多いと言われています。
さらに強いストレスがかかると「自律神経失調症」「うつ」を発症してしまうということ。
私自身も何度かの災害体験で、その都度ストレスや不安を感じてきたことがありました。
最も大きな災害経験だった阪神淡路大震災では、まだ20代と若かったこともあって、環境の変化に対応することができました。
でももし年をとってから大きな災害に遭遇して家や生活基盤を失うことになったら、精神的ショックは若い頃に比べると格段に大きなものになるだろうと想像できます。
日本はかつてない気候の変化にさらされており、台風の巨大化や各地で地震が頻発したり、南海トラフ沖地震、首都直下型地震の脅威もあり、コロナで経済や生活が脅かされている現実も続いています。
そんな中でどうやったら「災害不調」を乗り切ることができるのか?
この本は医師の観点で具体的な解決法を示してくれていました。
今回はその中でとくに「使えるな」「良いな」と感じたものを、それぞれ個別に紹介したいと思います。
アンガーマネジメントでストレス回避
災害後の生活で不安を感じたり、ストレスを感じたりするようになると、どうしてもイライラしたり怒りっぽくなることが増えます。
これは普段の生活でも同じですよね。
仕事や家庭のことで上手くいかないことがあると、誰かに八つ当たりしてしまう。
これが続くと明らかに周りに迷惑をかけてしまいます。
でも言葉一つで「トラブル」は回避できるということ。
一例として挙げられているのは、
誰かにものを頼んだり、仕事の依頼をして相手が思う通りの結果を運んでくれなかった
時間をかけすぎて間に合わなかった、指示通りにできなかった、みたいな状況になったときに「遅い!」「なぜ言ったとおりにやらなかったんだ?」と相手に詰め寄る
のではなく
「言ったとおりにやってくれなくて悲しい」「分かってくれなくて虚しい」「切ない」と言葉を言い換える
ことです。
こういうと相手は怒られるよりも「改善しよう」という気持ちになりますし、言った本人も自分の怒りの言葉でさらに怒ることがなく、静かな気持ちで相手に接することができるというのです。
お互いに「ストレス」を感じにくくなるということですね。
確かに怒りに任せて発言すると、言った方も言われたほうも「不愉快」「不安」になりますし、それがストレスにつながります。
災害後はまさに「思い通りにならない状況」が続いている環境なので、怒りを感じやすく、それを周りにぶつけてしまうことも増えるでしょう。
それが続くとストレス、不安が高まって、ついには災害不調を起こしてしまうことにもつながるのですよね。
その意味で「言い回しを変えること」は大切だということ。
この方法は確かに使えるなと感心しました。
実際に自分で言い方を変えて「怒ってみる」と、不思議と怒る方も感情が乗らずに冷静に伝えられる気がしますし、これだと言われた方も不愉快さはかなりなくなるだろうなと感じました。
他にも「6秒待つ」「怒りを数値化する」「心を静める言葉を繰り返す」「深呼吸する」と具体的に取り上げているので、このあたりはぜひ本で確認して欲しいと思います。
便秘に良い食品
災害後のストレスで不安が高まったり、夜眠れなくなると、自律神経が乱れて体調を悪くさせます。
そのうちの一つの症状が便秘です。
便秘は血流が悪くなったり、腸の動きが鈍くなることでおきますが、ストレスでリラックスできない状態が続くと排便を促す「腸のぜんどう運動」が鈍くなってしまいます。
便秘はけっこう大きな体調の悪化をもたらす症状で、その理由は、
・栄養が吸収されにくくなる
・老廃物が蓄積する
・老廃物が体中に回ることで「冷え」「疲労」「免疫力の低下」を招く
と医者の観点から指摘していました。
確かに震災で生活環境が悪化したときは、不安やら生活の不便さでストレスを感じて便秘気味になっていたと思います。
それが長く続いて「免疫力が低下」すると、他の病気も併発してしまうリスクが高まるので、持病をもつ高齢者などには要注意な症状だと思います。
そこで筆者が「便秘改善」に良い食品として挙げていたのが
・ビフィズス菌を含んだ食品(ヨーグルトなど)
・きのこ
でした。
どちらも腸内環境を良くする食べ物なので、普段の食事に取り入れるのも良いですね。
ただ停電になることが予想される災害時ではヨーグルトの保管は難しいので、きのこを食べることが現実的になります。
きのこ入りの食品なら防災食でも缶詰でも色々あるので、これはぜひ実践したいなと思いました。
肥満解消に良い飲み物
被災後の生活でストレスがたまって過食気味になったり、同じ場所で長くとどまることになってしまい、運動不足で太ってしまうことがあり得ます。
肥満は見た目だけでなく、生活習慣病や心疾患、高脂血症などの病気をもたらすので要注意というのが、医師である筆者の指摘です。
普通ならここで食事改善やダイエットが勧められるのですが、本書ではもっと簡単な「やせるホルモン」を促す食品を紹介していました。
【緑茶おからコーヒー】
・緑茶、おから、コーヒーのどれも脂肪燃焼効果が高い
・おからの大豆たんぱくには「痩せるホルモン(アディポネクチン)」を増やす成分がある
作り方は簡単で、材料があればすぐにできます。
以下がその方法です。
【作り方】
①緑茶とコーヒーを1:1で割る
②おからを粉末状にした「おからパウダー」(ティースプーン一杯程度)を混ぜる
③一日3回、食事前に飲む
緑茶もコーヒーもおからパウダーも保存が効くので、災害時にも普通に作れて飲めますね。
普段の生活でもダイエットに良い効果があると思うので、これもぜひ実践したいと思いますよ。
不安を解消する生活習慣
最後の総まとめとして「生活習慣」全体についての対策法をまとめていました。
数があるので全部は紹介できませんが、その中でも良いなと思った5つを紹介します。
朝に10分歩く
朝に歩くことがポイントです。
日光を浴びることで幸せホルモンであるセロトニンが増えますし、体内リズムも整えられます。
早朝だと誰もいないので、それもストレスを感じずに済むポイントですよね。
鳥の鳴き声や虫の声を聞くことでリラックスできますし、なによりも全身を動かすので血流もよくなります。
「10分」と時間を限定しているのも、毎日続けていくためのコツですね。
1分間瞑想する
心を落ち着かせるワークです。
目を閉じて視界を遮断するだけでも、脳が休まり、ストレスが軽減します。
以前に見たテレビの健康番組では「目を閉じて、自分の呼吸だけに集中する」としていて、試してみると、確かにすぐに「うつらうつら」と無意識の状態に入ることができました。
これが瞑想というやつなんでしょうね。
ストレスは免疫力を低下させるので、ぜひこの方法で心を落ち着かせて心身を平常な状態にキープしましょう。
一日2リットルの水を飲む
代謝を促して、むくみを解消し、体内の老廃物を流してくれる働きがあるということ。
さらに肥満を防ぐ働きもあるので、二重の意味でおすすめされています。
筆者はとくに「レモン水」を推奨していました。
レモンの香りは満腹中枢に働きかける作用があるので、食べすぎを抑えてくれます。
食べ過ぎによる肥満は病気の温床になるので、災害時でも普段の日常でも関わらずに気を付けるべきものの一つ。
レモン水はそれを抑えてくれる効果があるので、食事前に飲むと良いようですよ。
レモンには疲労回復に良いクエン酸も含まれているので、ストレス対策にも効果ありですね。
肩甲骨を動かす
筆者が災害不調で悩む患者さんを診てきて、多くの人が肩が凝っていると述べています。
確かに肩周辺が固まると頭に血流が行き届きにくくなり、脳の働きが鈍ってしまうのは分かります。
肩周辺を動かす体操をすることで、緊張がとれて気持ちもリラックスするということ。
お年寄りや運動が苦手な人でも簡単にできるので、これは確かにおすすめだと思いました。
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低GIのお菓子をとる
ストレスが原因で過食しそうになった時のための食品です。
「GI」とは食後の血糖値の上昇度数のことで、この値が低い食品であるほど、肥満になりにくくなります。
血糖値の上昇で肥満になるメカニズムは、
①食事で糖質を摂ると血糖値が上がる
②膵臓から血糖値を下げるためにインスリンというホルモンが分泌される
③インスリンには血中の糖分を脂肪に換えて体にため込む働きがある
④血糖値が急激に上昇するとインスリンは過剰に分泌される
⑤脂肪をため込みやすくなる
ということです。
上昇が緩やかだと、脂肪になる働きも緩やかになるということですね。
これが「血糖値の上昇率が低い「低GI」の食品は肥満対策に良い」という理由になるのですね。
低GIの食品は、
そば、玄米、大豆、ヨーグルト、バナナ、リンゴ
があります。
ストレスの発散という意味では、甘い物を食べるのもけっこうおすすめなので、大豆系バーなども良いようですね。
チョコレートでも低GIのものがあるので、普段から常備しておくと、いざという時のストレス・健康管理にも役立つと思いますよ。
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まとめ
以上が「災害不調」で書かれていた概要と、個人的に「これは良い」と感じたポイントをいくつかピックアップしてまとめたものになります。
本の内容は現役の医師が書いたものなので、かなり医学的寄りの災害対策という感じです。
精神的な症状をケアすることに重きを置いているので、災害時だけではなく普段から悩んでいる方にもかなり参考になると思いますね。
また著者はダイエット外来も扱っているということで、災害時における「過食」に関する対策記事にも的確なアドバイスが散りばめられていました。
物がなくなる非常時だから食べ過ぎることは悪いことではないと思っていたのですが、肥満で病気になるリスクがあるということで、持病持ちの高齢者や中高年世代には「ダイエット」は意外に必要なんだなと考え直させられました。
総じて心身ケアの改善法について丁寧にまとめられている内容なので、これはぜひ本を手に取って読んでもらいたいと思います。
かなりおすすめです。