防災書籍

防災本「必ずくる震災で日本を終わらせないために」レビュー

2021年4月16日

防災本の紹介です。

今回はかなり感銘を受けた内容の本。

タイトルは「必ずくる震災で日本を終わらせないために」です。

感銘を受けた理由は「国家・地域プロジェクトとしての防災の最前線で活動してきた建築・地震工学の専門家が熱く日本を憂う」内容だったため。

これまで取り上げてきた防災本といえば、個人の災害対策としての「具体的な方法論」についての内容がほとんどでした。

ところがこの本はより大所高所から見た防災論でありつつ、同時に停電や通信、高層ビルでの注意点などの細かい部分についても触れていて、かなり幅広い内容になっているのです。

その基本になっているのは、最初に言ったように「著者の熱情」

政府機関や企業とのやり取りを通じて、日本という国の災害についての問題を厳しく抉り出していく様は読んでいて心地よくさえあります。

そういう部分にすごく魅かれ、グイグイと読み進めていくことになりました。

ただ半分くらいは防災行政的な話や科学知識に寄っているので、素人の自分には少し難しい部分もあります。

今回はあくまで個人とし的になった部分だけにスポットをあててレビューしていきたいと思います。

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序盤は南海トラフの衝撃シュミレーションだった!

本のスタートは、南海トラフ地震が発生してからの「ある家族の避難シュミレーション」。

小説風といいますか、NHKスペシャルで特集されている災害ドラマ風になっています。

その状況と推移を箇条書きにしてみると、

・名古屋に住む家族が主人公

・四国沖で地震が発生

・高地中部、高知東部、徳島南部、和歌山南部で震度7、大阪は震度6

・四国、和歌山、大阪湾にも大津波が到達

・主人公の住む名古屋も震度5レベルの地震

という感じです。

あくまで本の中の想像上の話なのですが、記述がドラマ仕立てでかなりリアリティあり。

関西で発生した南海トラフ巨大地震を受けて、まだ被害が少ない東海地方に住む主人公やその家族が、各自で対応していく話になっています。

私の住む関西も震度6と津波が直撃するので、はっきりいって「ビビッて」しまいました。

これで一気に危機感と興味を掴まれた私は、もう本書から目を離せなくなっていったのです(シュミレーションストーリーは途中で終わります)

食べ物や水はできるだけ自前で揃えよう!

次の章は南海トラフが起きた時についてのデータ込みの警鐘です。

話の前提として以下のデータが示されていました。

・南海トラフ地震は100~200おきに繰り返して起きている

・静岡沖の駿河沖湾から九州の沖合までの広い領域でいっぺんに起きることもあれば、東側と西側で時間差で起きたことがある

・時間差も32時間後、2年後などまちまち

・南海トラフ地震は確実に西側も東側も両方起こる

ここから先に目を引いたのが、

避難所はできるけれども、食事は出ない

という記述。

この話の前提条件は、

南海トラフレベルの巨大地震と大津波が発生すれば、避難の対象となる住民の数は1000万人にもなり、その際に災害が起きなかった残りの地域の避難所で食事や毛布まで用意するのは非常に難しい

ということです。

被害に遭わないけれども、いずれ必ず来ると考えられる残りの地域への避難誘導を行う時。

すでに災害が発生し、地獄絵図のようになっている被災地と同じようなレベルの支援物資や環境を整えるのは可能なのか?ということ。

専門家の知見では「南海トラフ地震が起きるときは、東側と西側の発生時期にタイムラグがあることもあるし、両方いっぺんにくるときもある、でもいずれ確実にやってくる」という認識があります。

「西側’(関西)もしくは東側(東海地方)で起きたのだから、いずれ必ずこっちにもくる!」と言いたいところですが、それを確実なものとして断言できるのかということ。

その際に自治体が自主避難の人に言えることは「知人や親せきの家に避難してください」ということぐらいではないか?という現場の苦しみ。

行政が積極的に動きすぎると避難所は人であふれ、学校も休校になってしまう。

そして地震はいつ来るのか、果たして本当に来るのか分からない!

とどのつまりは、

データ上は全地域で確実に起こる南海トラフ地震だが、地域によって発生する時間差があった際に、まだ発生していない地域の自主避難には困難が生じる

ということなのです。

そのときに準備が整い切れていない避難所での食事や毛布が「間に合わない」「不足する」ことも十分にあり得るのです。

つまり我々は、できるだけ自前で食料や水を揃えておかないといけない、ということになるわけです。

停電は2週間を覚悟するべき

さらに本書を読み進めていくなかで目を引いたのが「停電」についてのくだりです。

北海道で起きた地震のブラックアウトを例に挙げて、震災での電力供給網のもろさを指摘する流れになっています。

南海トラフ地震が発生したときに起こる「電力」についてのトラブルが、以下のように取り上げられています。

・南海トラフ地震が想定される市町村には、約150か所の発電所がある

・火力発電所だけでも、出力合計約1億キロワットあり、複雑な送電網で結びついている

・激震地や沿岸部の発電所が津波で同時にやられれば、北海道地震でおきたブラックアウトと同じような状況になる

発電所が被害を受けてしまい、地震に強いとされる送電線がバッサリと切れてしまえば、3週間から1か月は復旧に時間がかかるということ。

さらに発電所から遠い内陸の県の復旧は、さらに遅れる可能性があるということ。

他にもいくつかの問題点を指摘した結果、

南海トラフによる停電の復旧は2週間かかる

という見方が述べられています。

これを読んで「マジかよ・・」と絶句しました。

私が経験した阪神淡路大震災では電力は3日ほどで復旧しています。

ガスもそこまで時間がかからなかったように思います。

29年前の阪神淡路大震災で体験したこと、必要だと感じたこと

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27年前の1995年1月17日。 当時住んでいた神戸の某地域で地震を経験しました。

食事や水も3~5日あるかないかのうちに自治体や自衛隊の支援がありましたし、何よりも神戸以外の地域からの援助が身近に期待できました。

しかし南海トラフのような巨大地震になると関西だとほぼ全域、東海地方も同様の被害を受けるので、支援物資の流通やインフラの復旧が簡単に進むとは思えません。

そう考えると、本書で書かれたさきほどの「電力の復旧には2週間」はやたらと真実味があるなと感じたわけです。

ケーブルに頼る通信網も危険

続いての本の中で気になった点は、地震による交通網の被害もさることながら(この前の章で取り上げられていた)、より個人的には「通信」にも相当な被害があるというくだりです。

・スマホの充電のために臨時の電源に列ができる

・非常用発電機があっても、燃料の供給システムがなければダメ(発電機は石油で動く)

・災害時は燃料を運ぶタンクローリーが不足する

・膨大な電子情報を保管する「データセンター」は装置が発熱するため、大量の電気と水が必要になる。ここが被害が起きるとサービスが停止する

電気は大事ですが、それを維持するためには、気を配らなければいけないポイントが多いという事。

電気通信の塊のようなスマホはまさにこの被害をもろに受けます。

そこで指摘されているのが、

・携帯の基地局の間は光ファイバーで接続されている

・それが切れたら終わる

・主要な光ケーブルは地中に埋設されており、地盤がずれれば切断される

という点。

さらにメールのやりとりをつかさどるデータセンターが被災すると、パソコンやスマホの通信が一気にダメになるというリスクもあるのです。

結局はデータ通信はまだまだ地上の物理的な制約が強い、ということになるわけです。

これに対しての回答は本の最終章に書かれています。

ここであえて明かすとすれば「電池」ということ。

防災ブログ的にいえば、ソーラーパネルを使ったポータブル電源が被災時に役立つ電気の代替品になります。

災害時やキャンプで役立つポータブル電源と発電機を紹介しています。停電時の電源の確保だけでなく、普段の電気代の節約にもなるの

個人のスマホ電源はなんとかなるので、あとは中継地点やデータを蓄積する場所の状況にかかっています。

そこはもう現場の復旧を待つしかないですね。

高層ビルの恐怖!

これまでは南海トラフ地震が中心でしたが、ここから東京についての記述になります。

著者は本書で「東京はベルトコンベヤー上のプリン」と表現しています。

その意味は「首都圏の地下は3つのプレートが重なり合っているため」ということ。

「太平洋プレート」「フィリピン海プレート」が地中深くでズルズルと動いていて、その上を関東地方の土台である「北米プレート」が乗っかっています。

さらにこの上に火山噴出物の「関東ローム層」と、プリンのようによく揺れる「沖積層」があるため、地震が起きやすいということになるのです。

そんな首都圏で地震が起きると、その被害は膨大になるというのは簡単に予想できますよね。

その被害の中で最も大きく取り上げられているのが高層ビルです。

高層ビルでは高いフロアに居住する人ほど、地震のときに大きな揺れに遭遇します。

とくに深い揺れによって大きく上下することがある長周期パルスの地震では、「ジェットコースターの乗っているような激しい揺れが発生します。

【都市型直下地震】長周期パルスが高層ビルを一瞬で襲う!

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NHKスペシャルで「都市型直下地震」の特集が放送されていました。 9月1日が「防災の日」だったこともあり、週末にかけてNH

この揺れによるリスクにもっとも遭いやすい街が東京であり、同じく高層ビルが多い他の年でも同じ被害が発生します。

そして揺れの次にくるリスクが「停電」

停電が起こると生活家電はもちろん、エレベーターも止まります。

最近のエレベーターはちょっとした揺れでも止まるので、もしそこで電気の供給が絶たれれば、エレベーターの中で閉じ込められてしまうことになります。

そうなると助けが来なければ、中で餓死してしまうことだって考えられるのです。

ほかにもエレベーターが止まってしまうと、階段で降りなければいけません。

上層階の人ほど降りる階段も増えますし、フロアが20階とか30階になると、上り下りだけで一苦労です。

足の不自由な人や高齢者はたぶん不可能でしょう。

停電が長引いて生活家電が使えなくなると、どうしても買い出しや配給を受け取りにいかないといけません。

そのためにはエレベーターが復旧するまでは階段を使わないといけない。

現実的な解決法としては、知人や親せきの家に一時的に移るか、下の階の人と仲良くなっておき、いざという時には避難させてもらうくらいしかありません。

私はマンション住まいなので、ここの記述はものすごく真実味がありました。

一番怖いのはエレベーターの乗っている時に「止まる」ことですね。

そしてそのまま閉じ込められてしまうこと。

この場合はもうひたすら助けを待つか、マンションに常設してある非常用電源の復旧を望むしかないと思います。

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日本各地に甚大な被害を引き起こした台風19号。 堤防の決壊による浸水などのインフラ災害だけでなく、多数の死傷者・行方不明者

低い階層のビルやマンションなら、普段から階段を使って上り下りすることで万が一に備えると良いのかもしれません。

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新しい技術と古くからの知恵で災害を乗り切る

新しい技術や、今まで受け継がれてきた伝統の知恵を上手く活かして「防災」に活用しようという章です。

大きくまとめてみると、

・スマホの活用

・固体電池の普及

・コンパクトシティーの実現

となっています。

「スマホ」はGPS機能で位置を確認できるので、災害で遭難したり生き埋めになった人の捜索に活用できます。

最近ではドローンを使ってスマホの無線中継を行う試みも出てきています(携帯電話の通信を復旧させたり、遭難者の位置を特定できるソフトバンクの「ドローン無線中継システム」 )

地震計にもなるので、専用の無料アプリをダウンロードするだけで揺れを把握することも可能ですね。

次が「固体電池」です。

固体電池は液体だった電解質を固体に置き換えたものです。

固体電池は液漏れせずに蓄電容量が圧倒的に増えるため、電気自動車やハイブリッドカーへの活用が進められていると言います。

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台風15号の影響で電力網が寸断された千葉県では、非常用電源として電気自動車が活躍しているようです。 電気自動車は通常の車よ。

これが普及すると、今まで線でつながっていた送電網が必要なくなる可能性もでてきます。

太陽光発電で作った電気をたくさん貯められるので、石油や石炭からも解放されるということにもなります。

電気インフラの大幅な改良になるので、震災時の復旧もすみやかに済むでしょう。

一般に普及して、小さな電池で生活家電が難なくこなせるようになれば、災害であたふたする必要もなくなるというものです。

これはかなり実用化してほしい未来のアイテムの一つですね。

そして最後のコンパクトシティー

このもとになったのは、中部地方に古くからある「輪中」と呼ばれる防災住居のことです。

「輪中」とは、河川沿いに発達した集落や共同体で、

・水害に備えて集落を堤防で囲む

・各家には盛り土をして水屋を作る

・そこに備蓄品を置いて船を準備し、水害になったらそれで逃げる

・普段は周りが田んぼで、人の住むところは輪中の内側に集約しておく

という仕組みをもっています。

著者はこれを現代版に応用できないか、と提案していました。

その内容が以下です。

・駅近くに人が住むところを集約する

・盛り土をしたグリーンベルトで囲う

・内側ではライフラインやインフラを整備して、安全な地域にする

・外部とはネットワークで接続する

・エリア内で人が住んでいないところは、農業や林業を行う

これを「新・輪中」と呼んで、新しい防災シティとして活用しようではないか、ということなのです。

この意見はかなり良いと思いましたね。

街の機能を「ギュッ」と凝縮して、防災用に作り替えるという仕組み。

ここに個人的なアイデアを付け加えると、

各家にはドローンや潜水艇、カヌーを置いて、そこに備蓄品を入れて置き、いざというときにそれで逃げるか、避難する

ことも良いのではないかなと思います。

大きな津波だと高台に逃げるほかはないですが、中程度のものや、豪雨時に氾濫する河川近くだと、このレベルの対応でなんとか行けそうな気がします。

人が乗れたり運べるドローンや潜水艇はいずれ技術的に可能になりそうですし、それこそ固体電池が普及すれば一気に開発が進むかと。

カヌーは今でも用意できるので、そこに備蓄用品を積んで脱出するというのも、あくまで想像の上では可能に思えてきますよね。

まとめ

以上が「必ずくる震災で日本を終わらせないために」本のレビュー&まとめになります。

取り上げた内容はごくごく一部で、大半は防災や地震建築・工学の専門家である著者が示すデータ、業界や政府関係機関との連携について触れられています。

確かに一部は難しい内容もあるのですが、基本は「防災はホンネで語らなければ前に進めない!」という熱い想いが前面に出てきているので、読みにくいということは全くないです(むしろ心が熱くなる)

なので今回のレビュー記事を読んで興味をもった人がいれば、本を購入するか図書館で借りて読んでもらい、著者の熱い想いと確実に起こる災害についての正しい知識に触れて欲しいなと。

そのうえでご自身の防災に役立てたり、地域防災への知見を増やしてほしいと思いますね。

実践的な技術論だけではない、社会全体を見据えた防災本としてはかなりおすすめです。

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